清水寺を深く楽しむ時間(1) 会席風の精進料理―境内の3施設
清水寺境内ではその昔、5軒の料理旅館が営業していた。参拝とともに精進料理をいただくのが古くからの慣習。今は3軒で会席風の精進料理が提供されている。
伝統の中に創意工夫を 清水茶屋ゆう心・森井優さん
その一つ、清水寺の表玄関の大門駐車場前で営業しているのが「清水茶屋ゆう心」。境内の三重塔近くにあった料亭旅館の清凌亭が前身で、その創業は大正期まで遡る。今は、伝統の精進料理から割子そばや丼ものまでそろえる食事処として営業しており、店を切り盛りするのが店主の森井優さん。
「かつて少し敷居が高かった精進料理を気軽に食べていただけるようにしています。昔のいいものを残しながら、独自性のある精進料理をお楽しみいただければ」。店はテーブル席で1、2階合わせて約80席ある。1階席では、きれいに整えられた庭を眺めながら食事が楽しめる。
今年(2019年)3月26日からは「安来ドジョウのオムライ寿司」(別掲記事参照)もメニューに加わった。現在、京都の名店・菊乃井で修行中だという息子さんがいずれ帰ってくると、伝統の中に創意工夫を重ねるゆう心の料理がさらに充実することだろう。
落ち着く空間で小休止 喫茶麻世・若原佳世子さん
参道の入口にある喫茶「麻世」。お抹茶やコーヒー、清水羊羹のセットなどもあり、参拝時に小休止するのにもってこいの店だ。
「店を開いてから40年になります。実家は以前、清水寺の境内で『温泉館』という旅館を営んでおり、大浴場もありました」と話すのは、店を営む若原佳世子さん。
店の名前の由来を聞いた。少し照れたようにこう教えてくれた。「学生で大阪にいた時、当時アイドルとしてすごく人気だった川崎麻世さんのご実家にたいへんお世話になりました。麻世さんのお母様が喫茶店を営んでおられて、こちらで店を開くときに思いつき、店名にするお許しをいただきました」。若原さんの人柄そのままの落ち着いた雰囲気の店内は、ついつい長居がしたくなる。
見た目も味も美味しい精進料理 松琴舘・青山欣司さん
石畳の参道を上り、最初に目に飛び込んでくるのが、周囲の景観に溶け込むようにして建つ「松琴舘(しょうきんかん)」。創業130年あまり、今の建物は大正期に建てられたものを現在もきれいに使っている。
精進料理をいただいた。質素なイメージを抱いていたら、とんでもない。どう見ても鰻の蒲焼きの「鰻もどき」、イカのお刺身にしか見えない「烏賊もどき」など、見た目も味も美味しい会席風の料理がテーブルいっぱいに並ぶ。動物性のものは一切使っていないのでヘルシーかつ品数が豊富なので満腹感はあるが胃もたれなどとも無縁。
6代目の青山欣司さんは、清水観光協会の会長を務め、皆から「きんちゃん」と親しみを込めて呼ばれるナイスガイ。「昔は団体がひっきりなしに来たそうですが、今はゆっくりと清水寺らしさを感じていただければと思っています」。精進料理のコースが2160円と聞いてビックリ。安過ぎませんか?と言うと、ニッコリ笑うきんちゃんなのだった。
松琴舘は、昼食はイステーブルで45席。宿泊は7室。1泊2食9720円から。大門駐車場から送迎も可。
外国人客に魅力伝える 紅葉館・青砥洋、尚恵さん
清水寺の一番近くに構える宿が「紅葉館」。清水寺のシンボル三重塔を眺めながら精進料理が楽しめる。仲良く宿を切り盛りする青砥洋、尚恵さんご夫妻と話し込む。
紅葉館はいま外国人観光客の宿泊が増えているそうだ。純和風の宿の設えはもちろん、精進料理がベジタリアンの外国人に好まれており、肉魚のほか卵や乳製品も使用しないヴィーガン料理のメニューも検討中。
「日本の方に比べて本当にゆっくりと過ごされます。中海や大山の眺めがいい境内最奥の展望台まで1時間半ほどかけてのんびり歩かれたり、朝のお勤めや座禅の体験をされたりしています。清水羊羹の出店のおばちゃんと片言同士で話し込んでいる姿もよく見かけます」と洋さん。彼らの清水寺界隈の散策に必携なのが、尚恵さんら女将を中心に作成した英語版の散策マップだそう。
紅葉館は、最大50人まで収容する宴会場を備え、昼食は2千円台から。宿泊は多彩な和室7室で1泊2食1万1880円から。貸切利用できる大浴場もある。
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