鉄師御三家-奥出雲で感じる名家の威光
田部家・櫻井家・絲原家
たたら製鉄が盛んだった江戸時代、松江藩には「鉄師御三家」と呼ばれる製鉄業の中心的存在があった。藩の財政を支えただけでなく、地域に風雅を伝える文化拠点としても機能した。田部(たなべ)家、櫻井家、絲原(いとはら)家。今も旧宅や町並みに御三家の地域への存在の大きさが色濃く残る。たたら職人をまとめあげた鉄師の矜持を感じて、奥出雲を歩きたい。
鉄の歴史村を標ぼうする雲南市吉田町。その中心にあったのが、田部家だ。1707年からの200年の間に21の蔵を建て、その土蔵群は今も残る。整然と並ぶ白壁の土蔵群は、往時の威光を伝え、吉田のシンボルとして親しまれている。
吉田のまちは田部家を中心に発展した。有力者が暮らす本町通り、鉄の加工場や職人の長屋などが機能的に配置された企業城下町の名残は、現代にあってもまちのそこかしこから感じられる。
奥出雲町上阿井の櫻井家は、大坂夏の陣で倒れた戦国武将・塙団右衛門の末裔という名家。産出する鉄は良質と評価も高く、歴代鉄師頭取を務めた。
櫻井家住宅は1738年建造の母屋を中心に現存。国の重要文化財に指定されている。母屋のほか御成門、金屋子神社、蔵などで構成され、隣接する可部家集成館で同家を詳しく学べる。
なかでも見逃せないのは日本庭園「岩浪の庭」。1803年に造成され、たびたび訪れていた7代藩主・松平不昧から滝を「岩浪(がんろう)」と名付けられた。その風情が、ここが地域の文化拠点だったことを伝えている。
奥出雲町大谷の絲原家も藩鉄師頭取。江戸から大正までたたら製鉄に携わり、山林業に転換後も国鉄木次線の開通に尽力するなど地域の名家であり続けた。
居宅を中心とする絲原家も、往時の繁栄ぶりを伝える建物が現存している。江戸後期建築の居宅は国重要文化財に指定。藩主の本陣として利用された客殿棟と広大な客間を持つ母屋を中心に、部屋数は約40という豪壮なものだ。藩主ゆかりの茶道具の展示もある。
庭園は池泉回遊式の出雲流で、砂鉄を採取した跡地に造成。番頭や手代の住居や砂鉄採取の跡地を林間散策路として整備した「洗心乃路」は季節の草花を愛でられるなど、敷地全体が見どころとなっている。
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