海士町で地域再生を学ぶ(1) 年間1千万人超が視察
地域再生のモデルとして知られる海士町。平成の大合併のなかで、合併せずに自立の道を選んだ。その取り組みは「島まるごとブランド」構想として一つずつ結実しつつあり、地域空洞化に悩む他の自治体などからの視察が相次いでいる。年間100件以上、1千人を超える視察者が訪れるほどだ。
財政危機から一転 若者発信で新事業
海士町がある中ノ島に船から降りると、最初に目にするのが「ないものはない」と書かれたポスター。その割り切りの良さというか特異なキャッチコピーに驚く。実際、この島には島後や西ノ島とは少し異なる空気が流れている…ような気がする。その一つは若者の姿が目につくことだ、と気づくのにそう時間はかからなかった。
町作成の資料によると2012年度末現在で246世帯361人のIターン移住者が町に定住している。町の総人口は増えていないが、若い就業者人口が増えたことで島に活力が出てきている。全国の地方が過疎高齢化に悩むなかで、交通アクセスなど障壁が多い離島になぜ若者がひきつけられるのか。まさに異例のことである。
その秘密を探ろうと、全国から多くの視察者が訪れる。02年に就任した山内道雄町長が企業経営の理念と手法を町政に持ち込み改革を断行していったことが大きい。町長に端を発した給与カットが町職員に広がり、町の補助金返上を町民が申し出るなど、目前に迫っていた財政再建団体転落の危機からの脱却に取り組んだ。
かといってコストカットだけをやったのではない。カットし捻出した金を新しい産業の振興や子育て支援へと振り分けた。そうして生まれたのが、今や全国区になった「島じゃ常識!さざえカレー」や「隠岐海士のいわがき・春香」だ。
つまり、未来図を示した。公設民営を徹底し、公共工事に頼らない産業構造を町が率先して進めた。それに呼応するように島外から若者が流入し、さらに若者の中から新たな産業が生まれていく…そんな地域を元気にする歯車がぐるぐると回り始めているのだった。
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