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上高地を歩く 初めての徳澤行

河童橋から上は別世界

今年は4月21日から観光客の受け入れを始めた上高地(長野県松本市)。4月27日に山の安全を祈願する上高地開山祭を行い、本格的な観光シーズンの幕を開けた。

20年以上通っている開山祭の日、初めて徳澤まで歩いた。大正池と明神まではこれまでに何度か歩いている。今回は明神の先を目指す。

午後1時ごろに河童橋から左岸を歩き始めた。すぐに清水川を渡る。湧水を起点に梓川に注ぐ、わずか200メートルほどの小川は、天候にかかわらず濁ることなく、枯れることもない。今回初めて知ったことだけど、上高地の旅館は清水川の水を上水として利用している。

明神まではほぼ平坦な道が続く。ところどころにフキノトウがでている。手のひらサイズのカエルが歩いているのを見た。明神まで来ると観光客の姿はグンと減り、河童橋周辺の賑わいはない。明神岳から前穂高岳までの連山がひとつの大きな山のように見える。

明神を過ぎ少し行くと右に徳本(とくごう)峠への道を見送る。昭和初期に釜トンネルが開くまでは、島々から徳本峠越えが上高地への主要なルートで、このあたりが上高地の中心だった。

江戸期に木材の伐採や炭焼きで開拓された上高地は、明治期には牛や馬の夏の放牧場としても利用された。人とともに牛や馬も徳本峠を越えた。上高地で牛や馬の主食となったのがニリンソウで、今でも群生し、5月には小さな白い花をつける。

明神から徳澤までは50分ほど。こちらも道はほぼ平坦だった。途中、梓川の河床が幅100メートル以上は広がっているあたりから、遠くに雪をかぶった三角の山が見えた。きっと名のある山なんだろう。上高地は、奥がずっと深かった。

徳澤には草のキャンプ場があって、テントが2、3張られていた。正面には明神からはひとつの塊に見えた山が連峰に広がっていた。右端の主峰が前穂高岳だったような気がする。宿泊施設が2軒あって、徳澤園は井上靖の小説「氷壁」ゆかりの宿だとあった。リニューアルしたばかりとあって、イメージしていた「河童橋から2時間弱歩いたところにある宿」とは異なり、かなりいい感じの外観だった。レストランでコーヒーを飲んだ。

引き返して明神まで戻って午後4時少し前。明神館でビールをジョッキで頼み、屋外のテーブルで休憩した。2年前の開山祭で来たときは、寒くて熱燗を頼んだ。

明神岳

ビールジョッキ越しに明神岳を望む

「上高地は河童橋を境に変わる」という話を聞いた。河童橋から上(かみ)はすれ違う人があいさつの言葉を交わす。河童橋から下(しも)はあいさつを交わさないと。翌日、河童橋から大正池まで歩いたけど、たしかにその通りだった。河童橋から下は、すれ違う観光客の数が多いのも理由だろう。

明神橋を渡って右岸で戻る。河童橋までは左岸に比べて10分くらい余計にかかるけど、木道が多く楽しい。途中、沢に映る逆さ六百山を撮った。河童橋に戻るころには、たもとの旅館には灯りが点いていた。明神から河童橋まですれ違う人はいなかった。

六百山

六百山の山容が水面に映える

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