何回訪れても新しい発見 四季折々の阿蘇に感動
阿蘇市を観光地にふさわしい、好感の持てるまちにするため、昨年1月から地域振興マネージャーとして活動している前田香保里さん。ANA総合研究所からの派遣で地域振興に取り組んでいる。前田さんの活動レポートが昨年11月発行の「広報あそ」に掲載されたが、今回、そのなかから前田さんが阿蘇観光をどのように捉えているかを抜粋して紹介する。
阿蘇地域振興マネージャー・前田香保里さんが語る「ホンネの阿蘇」
平成23年1月から阿蘇市経済部商工観光課で月に5回、滞在して活動を行っていますが、毎月訪れるたびに四季の移り変わりに応じて変化する阿蘇の雄大な景色、そして、阿蘇市のそれぞれのまちの持つ素晴らしさに感動しています。現在では阿蘇に行くというよりも、阿蘇に帰る、という表現がしっくりするほど、阿蘇に魅了されていると言っても過言ではありません。東京では新橋にある職場におりますが、職場の壁にも阿蘇のポスターを貼って、社内で阿蘇のPRをしています。
私の主な仕事しては「訪れた人の満足度の向上」と「阿蘇の食に関する開発と向上を図ること」という2点に取り組んでいます。要は訪れた人をいかに阿蘇の地域全体の力でもてなすか、ということだと考えています。結局、訪れた人の満足度を高めることができるものであれば、そのすべてに関係していくことが必要であり、勉強していかなくてはならないと思っています。訪れた人はその地域の空気を感じ、人と会話し、期待する食べ物を食べ、買いたいものを買い、旅の時間のすべてを通じてその土地の印象をお土産に持って帰ります。
行くに値する価値を考える
阿蘇市は一の宮、内牧、波野、坂梨といったエリアがあり、その他も含めて、それぞれのカラーが違います。その違うところが、素晴らしい宝物であると感じています。阿蘇は広すぎて統一感がない、観光の目玉がない、今風ではないなどの話も聞きますが、それぞれのエリアが違うからこそ、何回訪れても新しい発見ができるといえます。そして、それぞれのエリアの中には今あるものを活かせる部分がまだまだたくさんあると思います。阿蘇は水、温泉、宿場の雰囲気、おいしい野菜、花など、人が訪れたいと思う要素がたくさんある素晴らしいところです。
阿蘇市として管轄している地域が広く、移動が不便であるのは事実だと思いますが、現在も多くの観光客が自家用車、またはレンタカーなどで移動していることを考えると、一度訪れた人が再度訪れてくれる可能性は十分にあります。人はどんなに不便なところでも「行くに値する」と思った場所には必ず集まってきます。逆に考えれば「行くに値しない」と思う場所は、たとえ便利な場所であっても人は訪れません。だからこそ私たちは、どのような手段であれ今日訪れた人を十分満足させるだけの価値があるだろうか、と考えなくてはならないのです。お天気によって、日によって、1日の時間によって変化するこの素晴らしさは、このカルデラの中に降り立ってこその感動だと思います。
先日、観光学を学ぶ東京の学生が阿蘇に実習で来ました。ちょうどよい機会だったので、学生から阿蘇の印象や、訪れてわかったことなどを自由に話してもらいました。1人の女子学生は「阿蘇に実習で参加することにしたとき『阿蘇って、火山しかないじゃない』」と思ったそうです。しかし「実際に実習で来たら、たくさん素晴らしいことがあって、ぜひまた来たいと思いました」と話してくれました。確かに訪れたことのない人に阿蘇の話をすると「阿蘇山って火山ですね」とだけのイメージの人はたくさんいます。「九州だから、暖かい山の温泉地ですね」とも言われます。
会話の中から次回への期待感
阿蘇は有名な観光地でありながら、その麓の阿蘇市の存在は、観光地・阿蘇としての名前ほど知られていないようです。私自身、阿蘇には観光できたことがありましたが、火口以外のイメージはありませんでした。外輪山にぐるりと囲まれたカルデラの中に立ったとき、この中にまちがあり鉄道が走り、たくさんの人々が生活しているという事実に驚かされました。この貴重な景色に触れた時の感動は、なかなか他の人に表現しようがありません。そのため、いろいろ説明を試みてもむずかしく、最後は「とにかく来て! 一度このまちに立って景色を眺めてみて!」というよりほかにありません。それほど、阿蘇の景色は来てみないとわからないと思います。
おかげで「とにかく来る」友人、同僚が徐々に増えているのはうれしい限りです。最近は「行ってきたよ」「よかったよ」との報告があるたびに「今度は冬に来てね」「春の緑は素晴らしいよ」と必ず付け加えます。
しかし繰り返し訪れてもらうためには、一度訪れた人が期待以上に満足し、かつ、さらにまだ見ない魅力を知ってもらうことが必要です。阿蘇の魅力は、その人が訪れた時季や物・場所以外にたくさんの魅力がまだまだあるということを伝えていかなくてはなりません。
その伝えるチャンスは、町の人たちにしかできないことであることは、あまり理解されていません。例えば夏に訪れた人に「今度、冬に来るとまた違った阿蘇の魅力がありますよ。古閑の滝というのがあって…」という何気ない会話があれば、その人の心に「今でも素晴らしいところなのに、もっと違ったものがあるのなら、ぜひまた来たい」という期待感を生み出すのです。阿蘇の魅力を伝え、わかってもらったならば、きっと訪れた人と楽しい会話のひと時を過ごすことができると思います。
他地域真似ず阿蘇らしさを
阿蘇を訪れようとする人は、大きく「阿蘇」という言葉をイメージして、その中で魅力的なところはあるのか、どこで何をするか、そのためにどう移動するのが効率的か、というそれぞれの「期待」を持って旅に出ます。訪れる人にとっては、市であっても町であっても、その区分けは関係ありません。阿蘇ならではのモノやコト、阿蘇に来たからこそ味わえる食、空気、たくさんの宝物を際立たせることこそが必要でしょう。
そのためにもそれぞれのまちにある、それぞれのよさに、まずは磨きをかけていきたいですね。他の成功した地域のまねをする必要はありません。よい点は取り入れ、学んでいくことは重要ですが、その地域ならでは、という部分を大切にしていきたいと思います。阿蘇らしさ、阿蘇で1番、阿蘇に来ないと得られないもの、食べられないもの。それらの「良さ」の質を高め、「他にない本物」を追求していくことが訪れた人にとっても、尽きない阿蘇の魅力を見出していくことにつながります。
物語つくり女性旅を提案
今、私が関心を持っているのは物語です。阿蘇五岳のうち、根子岳に魅かれています。「涅槃像」は山を表現するすばらしい形容ですが、阿蘇の根子岳くらいネコにまつわる伝説が多い山はないという話を聞きました。日本むかし話の「やまのねこ屋敷」は有名です。このほかにも阿蘇の山にはネコの大王がいて、日本のネコたちは7歳を過ぎると皆修行に出る、というお話があり、とても素敵だと思います。日本中のネコが修行に集まる山、ネコの聖地―。なんとワクワクする場所でしょう。
阿蘇は山の自然が主な観光地であるため、どうしても女性を満足させる部分が少ないように感じています。旅の主流は中高年の女性が多いことも事実です。阿蘇の魅力を目一杯楽しめる女性旅を模索していきたいですね。
(以上、要旨のみ抜粋)