ものづくりの心を伝えたい・大阪府東大阪市(1) 職人の熱い心学ぶ
大阪府東大阪市は中小製造業の工場が軒を連ねる、日本有数の「ものづくりのまち」。このまちで取り組みが進む「ものづくり観光」が今、注目を集めている。地場産業の斜陽化に悩む地域を観光によって活性化しようというものだが、その根幹には、「地域が誇るものづくりの"心"を伝えたい」という熱い思いがあった。著名な観光名所があるわけでなく、観光地としての知名度も高いとはいえないこのまちの、"誇り"の商品化に迫る。
中小製造業が集積 修学旅行先として好評
東大阪市は、戦後から中小製造業が集積し日本の産業の屋台骨を支えてきた。しかし、バブル期に約1万社あった工場数も、景気低迷の影響で、今では約6500社まで減少してしまった。
とはいえ、東大阪のものづくりの実力は折り紙つき。東大阪の名を一躍知らしめることになった人工衛星「まいど1号」をはじめ、全国トップシェア、オンリーワンの高い技術を有する企業が集まり、その業種も「歯ブラシから人口衛星まで」といわれるほど幅広い。そして何より、東大阪の「光」ともいうべき、ものづくりに真剣勝負を挑む職人の心がある。
これを地域活性化につなげようというのが「ものづくり観光」だ。2009年、地元のホテルセイリュウや中小企業が集い、「東大阪モノづくり観光活性化プロジェクト協議会」を発足。主に修学旅行を対象に、工場の製造現場見学や講演をメニューに組み込み、東大阪の「ものづくりの心」を伝えることで、東大阪のファンづくり、そして後継者育成にもつなげようと取り組みを始めた。
修学旅行のコースは、中小企業の経営者によるものづくりへの思いや意義などの講演と、班に分かれての工場2―3カ所の製造現場見学が基本。学校からの要望を聞いた上で、同協議会事務局が参画する38企業と調整を図りスケジュールを設定するという、地元一体の手作りのプランで学生たちを迎え入れている。
事務局がコーディネートをすべてこなすため、手間はかかるが、その分反響は大きい。修学旅行の志向は物見遊山から体験型にシフトしており「ものづくりを行程に入れたい」という声が増加。手作りでの対応は旅行会社からも好評で、旅行会社には教員から「こういう修学旅行がしたかった」、学生から「大きなインパクトがあった」という感想が届いている。
修学旅行は10年度が39件、今年度も4月25日現在ですでに42件、さらに来年度の予約も入るなど、取り組みは着実に実を結んでいる。一般団体の受入も昨年からJTBが商品化。各地の商工会が地域活性化の参考にしようと視察に訪れ、口コミで広がっているという。
もちろん、この取り組みを支えるのは地元企業の協力があってこそ。東大阪には「ものづくりの精神、大切さを子どもたちに伝えることが使命」と胸を張る経営者がおり、学生たちからのお礼の手紙に喜ぶという"交流"が生まれている。同協議会の足立克己事務局長は「心の伝承に使命感を持つ人がいることを伝えたい」と語る。
同協議会では今後、今の手作りの魅力を残しつつ、受入拡大へ組織の整備、システム化を図り、一層の地域活性化に努めていくという。
まちの熱い思いが形になった商品は、一口に産業観光と言い切れない重厚さを持つ。訪れた学生たちはその思いを確実に受け取って、学んで帰る。東大阪の「ものづくり観光」は着実に好循環を生み出しながら、地域の誇りと魂を伝えていく。
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