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東北ききある記-福島・土湯温泉(1) 「最近は下宿業」

11/07/07

土湯温泉の入口付近から損壊した旅館の建物の一部が見えた。古くからの知り合いの宿で、その後しばらくして廃業した。福島県中通りでも震災の「揺れ」に大きな影響を受けた旅館がある。車を停めて温泉街を眺める。川があって、周辺にごちゃごちゃと旅館や商店が固まっている、こんな温泉街の眺めが好きだ。温泉街を包むように柔らかい新緑の森、その奥にはまだ雪が残った山が連なる。

土湯温泉の最深部にある旅館、奥つちゆ川上温泉を訪ねた。ゴールデンウイーク後半の5月8日の日曜日だった。

「久しぶり」

「最近は旅館業じゃなく、下宿業です」

宿の若旦那、阿部俊英さんとの会話はこんな感じで始まった。

土湯温泉

山間に密集する温泉街と新緑と残雪の山。
好きな眺めだ

土湯温泉の旅館には原発事故で避難指示が出されている浪江町の人たちが4月10日ごろから災害救助法に基づき避難生活をしていた。当時で約1千人、町の職員2人も常駐していた。旅館の滞在費3食付きで1人1日5千円は国が全額負担する。月2回の締め日に福島市が国に立て替えて旅館に支払っている。

木造2階建て15室の宿の12室に27人が滞在していた。部屋は家族単位で使われていたが、旅館によっては相部屋利用もあると聞き驚いた。

フロント前の椅子に腰かけての長話の最中、滞在している人たちが、すぐ横の談話スペースで新聞を読んだり、お茶を飲んだり。日曜だったこともあり、避難している人を訪ねてくる人も数組、町の職員も一度訪ねてきた。

翌朝、食堂前の廊下を通ると数人の男性が柱や床を乾拭きしている。フロント近くでも男性が掃除機をかけていた。「滞在している人たちは毎日掃除をしてくれる。トイレは女性が、そのほかは男性が」と聞いていたけど、目のあたりにすると不思議な眺めだった。宿が頼んだわけではなく避難している人たちが相談して決めたことだと聞いた。

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