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東北ききある記-福島・いわき湯本温泉(2) 湯上がりに「フラガール」

11/05/23

家族が避難先から戻ったのは3月も終わるころ。福島県内を振り出しに、いわき市に戻る直前は岡山県に滞在していた。

家族や住民のこともあり、原発関連の作業員の宿泊を受け入れるのには慎重を期した。作業員と移動に使用する車が被ばくしていないかスクリーニングの徹底と、必要があれば除染を求めた。結果を定期的に文書で提出するよう求めたが、宿泊している作業員全員についてのスクリーニングの結果は安全報告として毎日旅館に提出されている。

現在、こいと旅館には原発関連の作業員50人が当初2カ月の予定で宿泊している。2食付きで4千円。災害救助法に基づき旅館に避難している被災者1人あたりの宿泊料は3食付きで5千円。「安すぎませんか」。小井戸さんに尋ねると「原発を1日でも早く収束させてもらうのを最優先に、人道的な考えから受け入れを決めました。料金については交渉しませんでした」。

毎朝6時40分、7時10分、9時30分の3便、原発関連作業員のためのシャトルバスが運行されている。こいと旅館から原発作業員の拠点となっているJヴィレッジを約45分で結ぶ。ここから原発まではバスを乗り換えて30分ほどの距離。

シャトルバス

Jヴィレッジ行きのシャトルバス
と、こいと旅館

こいと旅館には、ほかに復興工事関係者と地方からの応援の警察官など30人が2食付き7千円で宿泊している。いわき湯本温泉全体でも28軒ある旅館のほとんどが営業を再開していて、工事関係者800人と避難住民250人で、いずれも満館に近い状態となっている。

満館で、旅館経営としては数カ月先を見通せる状況になったが、震災直後は違った。直後に銀行は、利息を除き借入返済の6カ月間猶予を認めた。3月16日には銀行も支店を一時閉鎖し市外に避難した。その後、新たに運転資金1千万円の融資を受けた。半年後に債権者区分が引き下げられないかが心配だ。

避難という特殊な事情があったことで、従業員は36人から18人に自然に減少したことなどもあり、雇用は維持できた。まだ申請していないが、3月11日に遡って雇用調整助成金の受給を受けるつもりだ。

こいと旅館激励の手紙

こいと旅館には各地から
激励の手紙が届く

こうした話はJR湯本駅近くの食堂で聞いた。

「震災後すぐに営業を再開したのは風俗店。食堂ではこの店が早く店を開きました」

それほど広くない店は、東京から支援の演奏会を開くために来たバンドメンバーと、原発反対を訴えに福岡県から来た女性で満席になった。

小井戸さん行きつけのスナックにも行った。ママは昔、旅館でコンパニオンをしていた。
「安全だから観光に来てくださいと言うつもりはないけど、いわき湯本は元気ですと伝えてほしい」とママ。小井戸さんも「広島、長崎、そして福島。10年経ったら世界中からお客さんが来てくれるかも」と冗談、それとも本気で応じる。

旅館に戻って温泉に入った。源泉は60度。浴槽にはどばどばと温泉が勢いよく放り込まれ、熱い。風呂を出てラウンジを通りかかると、映画「フラガール」が上映されていた。40年前、いわき湯本の常磐炭鉱が常磐ハワイアンセンターとして復興をとげる物語。鉱夫の妻や娘たちがフラダンスで地域に勇気を与える物語。映画に他愛なく笑い、他愛なくジーンときた。ラストの蒼井優のダンスシーンが素晴らしかった。ご当地映画をご当地で見る良さは確かにあった。

いわき湯本温泉の新しい復興の物語も、たぶんもう始まっている。

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