【特別寄稿】先人の知恵が生み出した懐かしい妖怪たち 徳島・にし阿波観光圏(2)
「仲よきことは美しき哉」と言った大作家がいたが、「仲よきことは力なり」と思った。「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する児啼爺(こなきじじい)発祥の地とされる徳島県三好市山城町の「妖怪屋敷」でのことだ。
この妖怪屋敷は元々は大歩危峡に代表される四国の貴重な石を展示する石の博物館として平成8年にできたのだが、入館者は低迷。施設は平成20年に道の駅の認定を受けて「道の駅大歩危」となっていた。その1階に昨年4月「妖怪屋敷」が誕生したのである。
この地方は大歩危小歩危に見られるように急峻な山とV字渓谷が続き、道も集落も、美しい吉野川も、一つ間違えば危険地域。そこで、昔の人は注意を促すために「妖怪」を作り、出没させた―とみられる。
妖怪話は親から子、孫へと伝承され、妖怪たちは秘やかに生きてきた。その数53種類、言い伝えられている場所は80カ所にも上る。
この地の妖怪話は昭和9年に、すでに民俗学者の柳田国男の弟子武田明が調査していたのだが、近年になって、この町出身の下岡昭一氏が再調査。「ゲゲゲの―」の水木しげる氏主催の「世界妖怪協会」から第2回怪遺産に認定されたのをきっかけに地元住民たちで約60体の妖怪人形を作り、妖怪を蘇らせたのである。これがなかなかよい。
館内は「山道や里に現れた妖怪」「水辺の妖怪」等々に分けられていてよくわかるし、ストーリーも面白い。妖怪の文献や書籍も揃っていて、意外な作家が妖怪ファンだったり、の発見も。
小さな空間だが丁寧な解説、丁寧な展示。ちょっと恐ろしくて、でも懐かしい妖怪たち。素朴な心を取り戻せる空間だ。
住民たちのアイデアは、語り合う中で「妖怪まつり」や「妖怪ウォーク」「妖怪のコスプレ大会」等々、次々誕生。道々にも石や木彫りの妖怪たち。仲よきことは「力」になると実感。"懐かしいオーラ"ピッカピッカの施設だった。
(旅行作家・西本梛枝)
西本梛枝―旅行作家。日本ペンクラブ、日本詩人クラブ会員。多くの旅行ガイド本執筆を手がけ、「神明の里」(山脈文庫)など詩集も出版。ラジオやテレビへの出演、地域おこしのアドバイザーなどとしても活躍している。