【特別寄稿】気持ちの余裕が地域を輝かせる 徳島・にし阿波観光圏(1)
観光庁が魅力ある観光地づくりのために「広域観光圏」を提唱して2年半になる。全国45地域のうち平成20年(初年)度に認定されたのが16地域。その一つ、徳島県美馬市、三好市、つるぎ町、東みよし町で構成される「にし阿波観光圏」を1月に訪ねた。
このエリアには美馬市の脇町、つるぎ町の貞光、三好市の池田町が、それぞれに「うだつ」の上がる家並みを残している。いずれも江戸時代以降、明治、大正、昭和初期のころまで、吉野川の畔で藍やたばこを商って栄え、その余韻を今に伝える町である。元来、にし阿波という地域全体が、少し昔の日本の暮らしを点々と残すいい地域なのだ。
うだつは三つの町、ビミョウに違う。脇町はさすがに重伝建。ほぼ直線でのびる430メートルほどの通りにうだつがズラリと並び圧巻。貞光は二層になったうだつに、さらにこて絵が描かれて左官たちの遊び心が垣間見える。池田町のうだつは瓦の家紋が面白い。瓦職人の腕をとっぷり楽しめる。

脇町の「うだつ」の町並み
さらに、たとえば、建物内に生けられた花や樹。さりげなく座敷に在るだけで、家に凛とした空気が生まれる不思議。もてなしなどという畏まったものではない、日常の中にある気持ちの余裕である。結局、それが人をほっこりさせるのだ、とあらためて思った。急峻な大歩危小歩危の峡谷も、山の斜面に張り付く集落も、幾段にも棚をなす田も、暮らすにはラクではないはずだが、豊かな心を感じてしまう。
それは泊まったお宿「ホテル大歩危峡まんなか」でも感じた。たとえば寝床に湯たんぽ! 優しさにくるまれるような感触。湯たんぽのあまりの幸福感に帰阪後、早速湯たんぽを入手した。
このエリアには十年前出発した「大歩危・祖谷いってみる会」があるのだが、その会がそもそも心和む会。
地域が美しく、かつ強い光を発するポイントは「心の余裕」、と感じさせてもらった旅だった。
(旅行作家・西本梛枝)
西本梛枝―旅行作家。日本ペンクラブ、日本詩人クラブ会員。多くの旅行ガイド本執筆を手がけ、「神明の里」(山脈文庫)など詩集も出版。ラジオやテレビへの出演、地域おこしのアドバイザーなどとしても活躍している。