ミカンだけじゃない! 和歌山・有田地域で隠れた魅力探訪
ミカンの一大産地として知られる和歌山県有田地域。関西に住む者にとって、白浜や熊野への"通過点"として捉えがちだったこの地だが、自然に歴史にと観光面でも魅力を有していると聞いた。それならばと、有田市、有田川町、湯浅町、広川町の域内各市町を訪れ、その魅力を探ってきた。
棚田や古い町並み・・・地域固有の素材に輝き
まずは自然。有田川町の山村を車で走っていると突如として階段状扇型の独特な棚田が現れる。この「あらぎ島」は、江戸時代に開拓された当時の姿を残しており、「日本の棚田百選」にも選ばれている同町のシンボル的存在。高台の道路から眺めると、丸い棚田が放つ存在感、田に張られた水が太陽の光をたたえ、周囲の緑と調和した美しい景観に目を奪われた。キャンドルイベントなど様々な取り組みで磨きがかけられているそうで、確かに地域が誇る素材だろう。「ほかでは見られない光景だなあ」と、しばらくじっと眺めていた。
関西百名山の1つ、生石ヶ峰を登ると広がる生石高原は、有田川町と隣りの紀美野町にまたがる。有田の自然を見渡す雄大な景観が眼下に広がり、とにかく広大。初夏の新緑と吹き抜ける風が心地よい。家族やシニア層に人気があるそうで、この日も山菜採りを楽しむ人を見かけた。町の観光担当者は「西の軽井沢」と表現していたが、なるほどわからないでもない。
また、わさび寿司や山菜そばなど郷土料理、広川町の初夏を彩るホタルも自然を堪能する大きな素材といえる。
次に伝統。湯浅町は江戸時代に栄えた醤油醸造業のまち。伝統的建造物群保存地区にその名残りをとどめ、江戸から昭和にかけての懐かしい空間が広がっている。今も昔ながらの製造にこだわる「角長」では湯浅醤油の旨さの秘訣を学んだ。江戸時代天保年間の創業以来培われてきた、蔵に宿る酵母菌、吉野杉の木桶を使う製法は、歴史の重みに裏づけされた醤油本来の風味を現代に伝えている。まちを歩くと軒を連ねる旧家に江戸、明治、大正、昭和とそれぞれの時代の特徴を感じ、江戸時代の銭湯「甚風呂」も見学。ほのかに醤油の香りが漂う町並みで、地域の風土に触れた。
そのほか、有田市には有田川の鵜飼いがある。約600年前から伝わるという伝統の漁法で、熟練の鵜匠の手綱さばきは見もの。9月4日まで貸切舟で観覧が楽しめる。
懐かしい気分にさせてくれる自然、町並み、風土。これら心安らぐ地域固有の素材が有田の魅力といえそうだ。
"通過点"脱却目指して
域内各市町などでつくるありだ広域観光実行委員会は6月8日、関西圏の旅行会社やメディアを招いて視察旅行を実施した。南紀方面への通過点になっている現状を打破しようと企画。あらぎ島や湯浅の町並みなど観光資源をアピールした。
参加した旅行会社からは「駐車場やアクセスなどの問題はあるが、あらぎ島など旅行客に訴えかける素材が揃っていると感じた」「ハイキングなど歩く旅を造っているので、ぴったりの地域」という声が聞かれた。
視察旅行は秋も実施する予定。有田みかんの収穫体験や、3月にオープンした有田鉄道交流館見学を組み込むという。