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現代アートの聖地を巡る 岡山・香川備讃瀬戸地域

10/03/02

岡山市と香川県高松市を中心とする備讃瀬戸地域は、瀬戸内海に浮かぶ島々が多島美を形成している。近年、各島の個性がアートという形で磨きなおされ、光を放つ注目の地だ。今年夏から秋にかけて、島々を舞台に「瀬戸内国際芸術祭」が開かれる"現代アートの聖地"を訪れた。

"凄み"生む島と芸術の融合 犬島

岡山市・宝伝港から定期船で数分すると、犬島に着いた。潮風が緩やかに通り過ぎていき、小さな島独特の、のんびりとした空気が流れている。

犬島は明治時代には銅の精錬所があり栄えたが、その閉鎖で衰退の道を辿る。戦前に3千人いた人口は、現在は50人程度にまで減った。

しかし近年、瀬戸内の"アートの聖地化"に伴い、この島も再興の機運をみせる。

「犬島アートプロジェクト」は、近代化産業遺産・銅精錬所跡をアート空間としてアレンジ。島に流れるゆったりとした空気と静寂、重厚感ある精錬所に芸術の風を吹き込み、独特の空間を作り上げた。

ガイドの案内で施設内を歩く。精錬所ならではのカラミ煉瓦造りの中を進み、横を見ればすぐそこまで海が、顔を上げるとシンボルともいうべき巨大な煙突が。当時の景観を留める工場跡の風景に歴史の重みを感ずれば、新たに設置された現代アートの作品群も鋭さを増す。

犬島アートプロジェクト

煙突と島の自然の調和に重みが。
カラミ煉瓦造りの精錬所跡を上から見るとまるで迷路

島の歴史と現代の感覚、自然の融合が、「楽しい」とか「感動的」といった平板な表現で言い表せない、静寂に満ちた「凄み」を生んでいる。島の個性がアートに調和しているからこそ出せる味わいだろう。思わず息を呑んだ。

環境もキーワードにしており、島を流れる空気を生かした温度調節を取り入れるなど、島そのものをアートにする工夫も面白い。まさに「島を体感する」というわけだ。

次田知恵子さんは、生まれも育ちも犬島。昭和ひとケタ生まれの島の生き字引は、現在ボランティアガイドとして施設内を案内している。ガイド中は島の歴史にも触れながら「幼いころはここが遊び場だったと言えば、皆びっくりする」と笑う。島で生き、島のすべてを知る人が、現代の新しい取り組みの大きな力となっていることは、とても心強い。「若い人たちががんばっているから」とスタッフたちと談笑する姿に、なんだか嬉しさを感じた。

犬島ガイド

現代アートと銅精錬所跡が融合。
左端が次田さん

素朴な人と路地に味わい 男木島

次に訪れた男木島は、山の斜面に民家が密集する人口約200人の島。島を歩き、高台の豊玉姫神社まで登ると、瀬戸内海と島々が一望できる。路地は細く入り組み、ネコがサッと走り抜ける。古くから建つ家屋は、潮風に耐えてきた長年の重みを感じさせる。

男木島

路地に懐かしさが

昼食は民宿「浜上旅館」で、獲れたばかりの新鮮な瀬戸内海の海の幸をいただく。御膳に乗り切れないほどの料理と、ご主人との素朴なやりとりに花が咲く。ここでも島に住む人たちの気風に触れる喜びがあった。

芸術祭では港の近隣に交流館が建設されるほか、民家や路地に作品が設置されるという。男木島の素朴な個性がアートと融合し、どんな化学反応を示すか。島を歩きながら"アート脳"をフル回転して夢想してみたが・・・。楽しみはとっておこう。

同祭はそのほか、アート運動の先駆けである直島はもちろん、女木島、小豆島、豊島、大島、高松でも展開する。7月19日―10月31日の間、備讃瀬戸の島々がアートの聖地として存在感を国内外に示す。

島の魅力を掘り起こし一工夫を加えた試みは、旅行者に興味と島に旅立つ理由を与える。こんなところにこんな喜びがあったんだ。単純にそう思った。  

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