「やっぱカニでしょ」 京都・丹後―山陰
人気グルメ漫画に、何ガニが美味いか言い争う場面があった。ある人は毛ガニと言い、別の人は松葉ガニだ、いや上海ガニだ...などなど。それぞれが自分の好物のカニこそが最高だと言い張り、ほかのカニをこき下ろす。これって結構現実的な話で、ついこの間も「ズワイガニなんて、北海道ではエサだよ」なんて言われたりした。その賛否はともかく、おおぜいの人が一家言を持つカニは国民食なのだと思う。というわけで、この季節「やっぱカニでしょ」と、丸くおさめましょう。
冬になれば恋しくなる美味さ
と言いながら、関西方面に住む人にとってカニと言えばオスのズワイガニ、それも「松葉ガニ」が一番身近な存在だろう。松葉ガニとは、京都府以西の兵庫、鳥取、島根県沖の日本海で獲れるズワイガニの総称。福井県に水揚げされると越前ガニに変わり、さらに北上して石川県に行くと加能ガニになる。
その味は、弾むように締まった身と濃厚で口に広がる独特の甘み...と書いていくと、また「いや毛ガニの方が」「なんのなんの花咲ガニだべ」「タカアシガニも」ということになりそうなので、やめておく。ただ、冬になれば恋しくなる美味さとだけ言っておこう。
そんな味を求めて、関西方面では毎年冬、ちょっとした民族移動のような現象が起こる。JR西日本は、山陰、丹後、但馬、北陸方面へ臨時列車を含めた「かにカニエキスプレス」を運行する。日本海側の温泉地や観光地を目掛けては直行バス、貸切バス、ツアーバスがドドドドと走る。旅先で散々食べてきただろうに、帰りのバスのトランクはカニの入った発泡スチロール製の容器で一杯になり、主要駅の構内でも容器をぶら下げている人が多い。宅配便で送ればいいのに、あれってやっぱり「私はカニを食べてきました」という一種のステータスなんでしょうね。関西以外の人には分かりづらい心理かな?
余談だが、かにカニエキスプレスはワンシーズンでおよそ10万人を運ぶ。この列車が走る前、JRのドル箱と言えばスキー専用列車「シュプール号」だったが、その落ち込みをカバーして余りあるほどだそう。今や、キャスター付きの専用バックで肩にスキー板をかついだ人なんて、ほとんど見なくなってしまった。それはそれでさびしい。
タグで地域ブランド 松葉ガニ
さて、松葉ガニ。最近は水揚げされた漁港によっても名前が変わる。その違い(味はどれも美味い)を鮮明にするために、"本物"は足にタグが付いている。
全国的にも知られる「間人(たいざ)ガニ」は、丸い緑色のタグにしっかりと間人ガニと書かれている。京都府・丹後半島の経ヶ岬沖で獲れる松葉ガニで、漁場が近く鮮度がいい。京丹後市の間人港に揚がったものだけが名乗れる希少品だ。京都府下では、同じ京丹後市の浅茂川漁港のほか、宮津港や舞鶴港で揚がったカニにも緑色のタグが付く。
鳥取県の各港に揚がったものは「鳥取松葉がに」という。白地に赤字のタグは伝統産品の因幡和紙を使っている。鳥取は田後港(岩美町)、賀露港(鳥取市)、境港などのカニ漁の拠点があり水揚げも多い。各港周辺には海産物市場が軒を連ねており、もしかすると一番出会える確率の高いブランドガニと言えるのかも。
兵庫県内の漁港に水揚げされた松葉ガニには青色のプラスチック製のタグが付く。城崎温泉に近い津居山、香住、竹野浜、柴山などそれぞれの漁港名を冠してブランドガニとしている。新温泉町の浜坂漁港は「浜坂ガニ」と名乗り、3年前からは観光協会が認定するカニ・ソムリエ制度もスタートさせている。カニに関する知識はもちろん接客、酒、料理、歴史、文化などを研修し、人材育成やまちづくりにもつなげている。
島根県も青地のタグ。松葉ガニの中心的な漁場は隠岐諸島沖にあり、隠岐の港へ水揚げするカニかご漁船は少なくない。「隠岐松葉ガニ」と呼称し、これもブランドガニの1つ。
いずれのカニも、まずはカニ刺しでつるるん、と。次いで焼ガニ、茹でガニと食べていく。鮮度の良いカニは単純な調理で十分に美味い。この辺りは無口に、一心不乱に身をほぐすことに集中する。カニ味噌をいただいて、甲羅に熱燗を注ぎようやく一息。カニすきで再び集中し、締めはカニ雑炊で。カニのいいダシが出ている。
松葉ガニ漁は3月20日ごろまで。